目次
● 多くの中小企業が悩む採用活動、その現状は?
● 中小企業が大手企業と同じ土俵で戦わない方がいい理由
● 中小企業が目指したい“攻め”の採用とは
● 中小企業の採用にはブランディングが味方になる!
● 中小企業の採用に対する公的なサポート
Contents(目次)
多くの中小企業が悩む採用活動、その現状は?
モノもサービスもつくるのは人。企業にとって、採用は重要な活動のひとつです。
2015年の中小企業白書では、中小企業の人材不足を示すアンケート結果が出ています。
n=3092 中小企業庁『2015年版中小企業白書について(概要)』より作成
充分、確保できている企業はわずか7%。大半の企業は充分ではないと考えていることが分かります。さらに人材を確保できない理由を見てみると、「応募がない」が半分以上、「いい人がいない」は40%を占めます。
n=1121 中小企業庁『2015年版中小企業白書について(概要)』より作成
人材不足を感じているのは中小企業に限りません。平成28年2月の労働経済動向調査、これは規模30人以上の民営事業所を対象にした調査ですが、正社員、パートタイム労働者の不足が続いていると発表されています。今後、生産年齢人口は減っていき、働き手の数が少なくなります。そんななか、企業の成長を支えられるような「いい人」は確保できるでしょうか。
ふたたび中小企業白書を見てみると、興味深い調査があります。これは低収益の企業と高収益の企業に、収益力の向上に対する課題をたずねた結果です。
図3 収益力向上に向けた課題
中小企業庁『2015年版中小企業白書について(概要)』より
いずれも「新規顧客・販売先の開拓」を一番に挙げていますが、続く課題を高収益企業は「優秀な人材の確保、人材育成」、低収益企業は「既存顧客・販売先の開拓」と捉えています。どちらが正解ということではありませんが、既に収益を得ている中小企業では、中長期的な視点で売上を伸ばしていくためには優秀な人材の確保が重要だと強く認識しているのです。
n=822 中小企業庁『2015年版中小企業白書について(概要)』より
どちらの企業も真っ先に挙げた新規開拓についても、人材はカギになっています。
新規市場開拓の売上目標が達成できなかった企業への調査結果を見ると「新規顧客の発掘等ができる営業の人材がいない」「企画やアイディアを出して形にしていく人材がいない」との回答が多く見られます。新たな道を切り開いていくには優秀な人材の確保は欠かせません。
人材の不足感が続いており、今後も厳しい状況ではありますが、優秀な人材を確保するためにも、今回は中小企業の採用活動のポイントについて考えてみたいと思います。
中小企業が大手企業と同じ土俵で戦わない方がいい理由
中小企業も大企業に負けない優秀な人材はほしい。でも、大企業と比べてしまうと、中小は採用条件や採用活動で見劣りする部分がでてきます。では、どうやって人材を確保したらよいのでしょうか。
ここで改めて、中小企業にとって何が不利かを整理してみます。
まず、採用だけに力を注げないという点。大企業なら専任の担当者がおけても、中小企業では兼務が一般的です。他に本来の職務があれば、採用に時間をかけられないのは当然です。また定期採用をしている大企業とは違い、中小では久しぶりの採用だという企業も。何年も採用が行なわれていないと、就業規則が古いままだったり、インターネットを使った求人に慣れなかったり、準備が整うまでに手間がかかるケースも見られます。
採用に人手がさけず、情報や経験が不足しがちという内部事情のほか、求職者の視点からは知名度の低さも課題です。新卒の学生は誰でも知っている企業を志望する傾向があると言われます。最近では毎年のように選考時期が変わるため、企業や業界の分析を十分にできず、名の知れた企業に応募するという状況もあるようです。条件面でも、給料や福利厚生を大企業と同列に比べられると中小には厳しいでしょう。知名度や条件を差し引いてもなお、選ばれるような魅力が必要です。
では、次に中小企業が有利な点を考えてみます。
まず採用の現場にトップが直接でてきやすいという点があります。考えてみてください。「何人もの相手に一方的に挨拶するだけの社長」と「自分に向かって熱っぽく話してくれた社長」のどちらが印象に残りますか。中小企業のトップも忙しいでしょうけれども、ここはぜひ引っ張り出してきましょう。個性豊かで魅力的な中小企業の経営者は多くいます。直接、語りかけてもらえれば大々的な求人広告にも負けないインパクトがあります。
次に、目を向けたいのは仕事そのものの魅力です。中小企業では大抵、幅広い業務を担当します。総務が経理を兼任することも多いでしょうし、営業がマーケティングも担当することもあるでしょう。役職についていない社員が全社規模の仕事をするかもしれません。優秀な人には、関連業務も経験でき成長できる仕事、多くの仕事を任せてもらえるチャンスは大きな魅力です。
トップが自分の言葉でアピールできる、仕事そのものに魅力がある。中小企業の採用は、この強みを武器にすることがポイントです。
中小企業が目指したい“攻め”の採用とは
では、具体的に、優秀な人材にアプローチするにはどのような方法が考えられるでしょうか。まずはトップのメッセージを伝える場を増やすことです。いくつか例を挙げてみましょう。
自社サイトに企業理念や社長のメッセージが掲載されていない場合は、まず紹介ページをつくってみてはどうでしょう。何でもインターネットに情報が掲載されている時代、少しでも事前に情報が検索できるということは安心材料にもなります。
インターネットの求人媒体を利用している場合には、求職者に直接メッセージを送ることもできます。なにか反応があるまで何もアクションを起さないのは“待ち”の採用。これはと思う人がいたら働きかけてみてください。
より深く魅力を伝えるには、仕事体験やインターンシップの受け入れも有効です。わずかな経験でも実際に職場に身をおけば、会社に対する理解が深まります。仕事のイメージや職場の雰囲気を理解すれば、入社後のギャップも減るでしょう。
さらに先を見据えた活動としては、学校との連携や地域の社会貢献活動も考えられます。今は採用対象ではない人も今後、職を求めるかもしれませんし、優秀な人材に成長するかもしれません。ですから、こうしたPR活動で今のうちに知ってもらうのです。全国区でなくて構いません。この地域、この業界では有名という知名度を目指しましょう。
いかがですか。「ハイスペックの人材を今すぐ低コストで採る」と考えると難題のようですが、「長い目で見て確実にいい人をとる」と考えると、できることはありそうだと思いませんか。
さて、ここで押さえておきたいポイントがあります。
まず、「いい人がいたら採りたい」の「いい人」はどんな人かを考えておくことです。そして、少なくとも採用担当者がそれを理解していることです。応募してくる人の大半は何かができて、何かができない人です。「話は苦手だけれど技術的な造詣が深い人」と「知識は少ないが営業力がありそうな人」、どちらが会社にとって「いい人」なのかを判断できるよう、基準を明確にしておく必要があります。そのためには「いい人」が入社後に何をするのかも考えておかなくてはなりません。入社後にどんな場面で活躍してほしいかを明確にしておくと、希望する人材に特化したアピールにすることもでき、より効果的です。
中小企業の採用にはブランディングが味方になる!
ブランディングは、中小企業の知名度の低さをカバーしてくれます。
ブランディングというと、ロゴの開発やパンフレットをつくることだと思われることがあります。それも一部ではありますがすべてではありません。ロゴを新しくして、名刺から社屋まで変えてしまうのは、ロゴを見た人に「あの会社だ」と認識してもらうため。目的はあくまでも、社名と印象を人の記憶に残すことなのです。
たとえば、フルスロットルのコーポレートカラーは青ですが、これは青い色からいつも同じイメージを持ってもらうためです。ホームページの青、名刺の青、プレゼンテーション資料の青、何を見た時にも同じ印象を持つと、頭の片隅に青い色とフルスロットルのイメージがセットで残ります。ですから、次に青を見た時に「あの会社だ」とそのイメージも思い出してもらえます。
なぜ青にしたのかには理由があります。社名にも意味があります。ここではその理由は書きませんが、会社としての思いをここに込めてデザインしているのです。
多くの会社のなかに埋もれず「あの会社だ」と区別してもらえるようにすること、これがブランディングです。
では、採用にそれがどう役立つのか考えてみましょう。ブランディングでデザインを変えたパンフレットは当然、印象も良くなり、たくさんの会社から就職先を選ぼうとする人の目に止まります。社員にとっても自分の会社のパンフレットが良いデザインだったら嬉しいでしょう。会社の案内にも熱が入るかもしれません。就活生や転職者は会社説明会、採用案内、面接で訪れた社屋と度々同じデザインを目にすると、デザインとセットで社名と会社に関する知識が印象づけられます。そして、いつしかデザインがフックになって、商品や社風もセットで思い出されるようになります。
フルスロットルではブランディングを追究した結果、「ビジネスをデザインする」ところまで踏み込むようになりました。どんなモノをつくってきた会社で、どんなミッションを持ち、何を提供するのか。本当に経営課題を解決できるブランディングでは、そこまで自分たちの会社を理解、分析することが求められます。これがしっかりできていれば、企業理念やミッションなどの深いメッセージも伝わります。そのメッセージに共感して入社してくれた人は、いずれ中核人材に育てていくこともできるでしょう。
人材育成にもつながる社内向けのブランディング
中小企業の採用は仕事そのもの魅力をトップの言葉で伝える、しかも、“攻め”の姿勢で積極的にそれを行なうということがポイントでした。さらに、知名度が低くてもブランディングができていれば、求職者の頭には社名も会社の印象も記憶に刻まれることをお伝えしました。
そうした工夫で獲得した優秀な人材は、簡単には出ていってほしくないものです。実は、ブランディングには人材の流出を防ぐ効果も期待できます。
ブランディングにも色々ありますが、社内にブランドを浸透させるインナーブランディングというものがあります。先ほどコーポレートカラーを例に挙げました。なぜ、その色なのか、社員は全員これを理解しているでしょうか。もしかしたら、青に何かしらの意味がこめられていることを知らずに、プレゼンテーション資料には自分の好きな黄色を使っているかもしれません。あるいは、優秀な人材を確保したいという思いの裏には、この先に技術開発や新規営業先の開拓が念頭にあるはずです。会社としては人を採用するほど、技術や営業を強化したいということを、どの社員も理解しているでしょうか。
このように、会社が何を目指しているのか、それをどのように社外に表現していくのかは、常に社員に知らされている必要があります。社内に向けてそれを発信、浸透させていくことをインナーブランディングと言います。
インナーブランディングがしっかりできていると、社員は会社が何を目指しているかを理解し、同じ方向に向かって仕事をすることができます。会社の目指す方向に共感して、そのために力を尽くしている社員は会社を辞めようとはあまり考えないものです。年頭の訓示だけでなく、いつでもこの会社はこんな方向に向かっていっているんだということを口で、そして態度で伝えるのを忘れないでください。採用に力をかけられない中小企業だからこそ、一度、採用した人材は離さないことも大切です。
中小企業の採用・人材育成に対する公的なサポート
“攻め”の採用を実際に始めるにあたって、相談相手がほしくなることもあるかもしれません。ブランディングについてはお任せいただきたいと思いますが、中小企業の採用・人材育成には公的なサポートも多くあります。以下にリンクをご紹介しますので、参考にしてみてください。
・中小企業庁
合同企業説明会の開催や最低賃金引き上げに向けた無料相談、地域での就職を希望する人材とのマッチングなど、各種のサポートに関するお知らせやパンフレットが掲載されています。
http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/koyou/
・厚労省
働きやすい・働きがいのある職場にして社員を定着させる取り組みの事例や活用できる助成金などについて紹介されています。
http://www.mhlw.go.jp/chushoukigyou_kaizen/
・東京都中小企業新興公社
人事のスペシャリストである人材ナビゲータによるサポートサービスが紹介されています。
http://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/jinzai/
・東京商工会議所
合同企業説明会や求人情報の提供などの採用支援について紹介されています。新卒からミドル、中高年、外国人留学生まで、幅広く対応しています。
http://www.tokyo-cci.or.jp/person/adoption/
・中小機構
小規模事業者の人材育成に関するケーススタディが見られます。
http://www.smrj.go.jp/jinzai/jirei/index.html
人材育成についてのコラムや労務管理ガイドブック、メンタルヘルスガイドブックなどが見られます。
http://j-net21.smrj.go.jp/well/jinzaikatsuyou/index.html